◼︎原題:Zaytoun(オリーブの枝)
◼︎製作年:2012年
◼︎製作国:イギリス、イスラエル
◼︎監督:エラン・リクリス
◼︎上映時間:107分
◼︎主演:スティーヴン・ドーフ
◼︎粗筋:
1982年にベイルートで撃ち落された戦闘機のパイロットと、敵対するパレスチナの難民の子供の逃走&友情劇。
◼︎感想:
敵同士の二人が、危険な旅を通して友情を育む。いい話だが、ありがちなストーリーでもある。だから、その部分は省略する。もし、この映画のストーリー通りのレビューを読みたいなら、他のサイトを見て欲しい。
この映画に惹かれたのは、ただ一点だけ。もしかしたら、この作品は壮大な罠なのでは?という疑問だ。つまり、この映画そのものは単なる前振りであり、本当の主題は映画の外にあるのではないかということだ。もしそれが当たっていたら、これほどやるせない映画は無いだろう。
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舞台は、レバノン戦争直前の1982年。主人公は、少年とパイロット。
少年の名はファヘッド、イスラエル建国によって故郷を追われたパレスチナ難民の三世だ。レバノンの首都、ベイルートの難民キャンプに住んでいる。諦め顔の祖父と、故郷から持って来たオリーブの木を大切にし、いつか帰る事を夢見てる父。しかしファヘッドは、パレスチナの解放を唱えるPLOの軍事訓練にも参加せず、この危険な街で日々を楽しんでいた。
そんな少年らしい時間は、空爆で父が殺されて終わる。ファヘッドは訓練にも参加し、PLOの下働きをするようになる。そしてある日、墜落した戦闘機から一人の男が捕虜となった。
捕虜となったパイロットの名はヨニ。
(その名前からも、作品中での言動からも、彼はイスラエル空軍のパイロットとしか思えない。しかし、この映画を紹介する多くのサイトでは、アメリカ軍のパイロットと書かれている。もしヨニがイスラエルの兵士で無いなら、冒頭に書いた話は的外れという事になり、これ以上書くことは無い。しかしせっかく書き始めたので、この捕虜をイスラエル兵と仮定して話を進めてみる。)
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ヨニの監視役となったファヘッドは、彼に怒りをぶつけながらも、今はイスラエル領となった故郷に連れて行くなら逃がしてやると持ち掛ける。彼の望みは死んだ父の夢を叶えること、つまり、あのオリーブの木を故郷の地に植えることだ。
他に脱出の術が無いと悟ったヨニは、不承不承にファヘッドの提案を承諾する。この時から二人にとって、周囲はすべて敵になった。ヨニはもちろん、彼を逃がしたファヘッドもPLOに追われるし、入り乱れる各勢力も二人のどちらかにとっての敵だ。
こうして、敵対しながらも助け合わなければ生きて目的を達せられない、そんな二人の旅が始まる。ハラハラ、ドキドキ、そしてたまに笑える逃走劇。そこは、先に断ったとおり省略する。
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なんとかイスラエル領に辿り着いた二人。ヨニの好意でファヘッドは父祖の故郷を見つけ、あのオリーブの木を植える。目的を達した彼は、一人ベイルートへ戻る。
その別れ際の二人の会話。ファヘッドはヨニに、またベイルートにおいでよと言う。ヨニは、ああ行くよと答える。もちろん、二人は平和になった時の事を想定して言っている。
映画は、ここで終わる。
しかし、この作品が前振りのために作られたとしたら、物語はまだ続くはずだ。そしてそれは、現実の歴史の中にある。そう、この映画の中の時間と、現実の時間を繋げるのだ。
ファヘッドとヨニの旅は、1982年のレバノン戦争の直前と設定されている。おそらく、五月頃だろう。では、二人が別れた後に起きた出来事を追ってみよう。
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ファヘッドとヨニが、再会を約して別れた一ヶ月後の六月。
ガリラヤの平和作戦と称して、イスラエルがレバノンに侵攻する。レバノン戦争の始まりだ。イスラエル軍はPLOの主な拠点であった南部を制圧したが、さらに軍を進めてベイルートを包囲した。首都で多くの市民を犠牲にして、ついにPLOをレバノンから追放する。
ところが、悲劇はそれで終わらなかった。レバノンに親イスラエル政権を樹立させる目論みが、バシール・ジェマイエルの暗殺によって頓挫してしまったのだ。イスラエルは激怒し、その意を汲むかのように親イスラエルの民兵組織が、ベイルートの難民キャンプを襲った。
ファヘッドとヨニが別れた四ヶ月後の、1982年9月のことだ。
これがアリ・フォルマン監督の「戦場でワルツを」でも描かれた、サブラー・シャティーラ事件だ。たった三日の間に、女も子供も、1500人以上の難民が虐殺された。この事件は国際的な非難を浴び、イスラエルのシャロン国防相が辞任している。
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さて、ファヘッドがヨニと別れて帰った先は、ベイルートの難民キャンプだ。そこに住んで居たのだし、祖父も待っている。そのキャンプ名は明示されていないが、同じベイルートだ。虐殺の起きたサブラーかシャティーラであると考えても、そんなに無理は無いだろう。
そしてヨニがイスラエル兵であると仮定したら、パイロットだから地上戦には関わらずとも、イスラエルのレバノン侵攻を空から助け、ベイルートを空爆しただろう。それは、サブラー・シャティーラでの虐殺に至るお膳立てを手伝ったとも言える。
ファヘッドに、またおいでよ…と言われ、ああ行くよと答えたヨニ。それは美しい人間の約束としてではなく、おぞましい悲劇として実現したのかもしれない。そしてこの映画は、虐殺されたであろうファベットを史実に沿って想像する事まで含めた作品かもしれない。
もしそうなら、この映画は壮大な前振りに過ぎず、別れのシーンの会話とその後に起きる歴史の事実こそが主題となる。やるせない、そして言葉を失うほど重い作品だ。
✳︎それにしても、変な邦題をつけたなぁ。意味が分からん。
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