2013年6月20日木曜日

一生モノの映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」その2


【感想】
この映画については、既に多くのブログで書かれている。まず映像の美しさを讃え、そして二つ目の物語を様々に解釈し、その比喩を美しい映像から読み解く。そんな試みを、たくさんの人たちが行っている。

しかし、それでもまだ、この映画には気になるヒントが幾つも残されている。食事で始まり食事で終わることや、名前についてのエピソードの意味など、あれこれと考えだしたらキリが無い。一生モノの映画と名付けた由縁だ。

とりあえずここでは、主人公パイが、なぜ作家に二つの物語を語り、どちらを選ぶか問うたのか?  そして、神のいる物語とは何を意味するのか? この二点を考えてみた。


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・なぜ、二つの物語を語ったのだろう?  そして、問うたのだろう?
いくら親しい人からの紹介とはいえ、初対面の相手だ。しかも、本を書くために話を聞きに来ている。そんな人物に、二つ目の物語まで語るのはリスキーだろう。

トラと漂流した物語だけで、作家は充分に満足して帰ったはずだ。なぜ、そうしなかったのか。そのヒントは、家族は妻と猫と子供二人だと、パイが話した時の会話にある。

「じゃ、ハッピィーエンド?」と、作家が問うと、「それは、あなた次第だ。物語は今、あなたの手にある」そう、パイは答えた。

つまり、まだ結末は確定していないのだ。実はパイ自身が、生還して以来ずっと、そして今も自問と葛藤を続けているのではないだろうか。そして未だに選びきれていない。

だからこそ二つの物語を語り、どちらを選びたいかと他者に問うてみたのだろう。もしかしたら、これまでにも同じ問いを、誰かに投げ掛けて来たのかもしれない。


パイが作家に問うた時の会話は、こんなふうだ。「どちらの物語でも、沈没理由は分からない。どちらの物語でも、それを証明出来ない。どちらの物語でも、家族は死ぬ。どちらの物語でも、私は苦しむ。 それで、どっちを選びたい?」

作家は、ほんの少し間を空けて、「トラの物語を…そっちが良い物語だ」と答える。するとパイは、こう返すのだ。「ありがとう。 それは、神が存在する物語だ」

この「ありがとう」は、何に対する感謝だろう? 未だに、トラと漂流した物語を選び切れない自分に対して、その物語を選んで良いんだと言ってくれたように思えたのかもしれない。もちろん、それで簡単に苦悩が終わるわけでは無いが、少しは重荷を軽くしてくれたのだろう。


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