2013年6月30日日曜日

憎悪の袋小路「灼熱の魂」その1


【データ】
灼熱の魂
原題:Incendies
公開:2010年
制作:カナダ・フランス
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演:ルブナ・アザバル
時間:131分

【原題】
「Incendies」とは、フランス語で炎、火事を意味しているそうだ。カナダ在住の劇作家ワジディ・ムアワッドの「浜辺」、「火事」、「森」、「空」と続く「約束の地」四部作という舞台作品の、第2作目を映画化したもの。不満が残る気がするのは、四部作の部分だからかもしれない。

【あらすじ】
カナダ・ケベック州に住む双子の姉弟(ジャンヌとシモン)は、亡くなった母親(ナワル)の遺言で父親と兄の存在を知る。そして母親の故郷であり、自分たちの生まれた地でもある中東の国に、初めて足を踏み入れる。



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【冒頭シーン】
ナワルは、娘のジャンヌに連れられて市民プールに来ている。平凡だが、平和な夏の一コマだ。しかしナワルは、そこで信じ難いものを目にしてしまう。その意味を理解した彼女は、まるで呆けたように表情を失う。


【感想】
徐々に明らかになる母ナワルの過去、そして姉弟の出生の秘密。ミステリーのような展開で引き込まれ、最後まで飽きさせる事が無い。そうした意味では、とてもよく出来た映画だ。

しかし、幾つかのレビューで言われているような、「憎悪の連鎖を断ち切る物語」とは、とても思えなかった。ナワルの託した二通の手紙も、憎悪の連鎖を断つ道を示しているとは思えない。むしろ憎悪の連鎖が辿り着いた、ひとつの袋小路ではないのかと感じた。



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以下は、ミステリー部分のネタばらしを含むので、この映画をまだ観ていない人は気を付けて下さい。
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母ナワルの遺言に従って父と兄を探すジャンヌとシモンは、その衝撃的な答えを知る。二通の手紙は、同じ人物へのものだった。1 + 1=1、つまり父と兄が同一人物というのは、憎悪の対象が愛の対象と同一だった事をも示している。

憎悪の対象を追い求めれば、それは愛の対象だった。愛の対象を追い求めれば、それは憎悪の対象だった。まるでメビウスの輪のようだ。憎むに憎めず、愛するに愛せず、あざ笑うことも、勝ち誇ることも出来ない。しかし、だからといって、憎悪を消す事も愛を忘れる事も出来ない。まさに袋小路ではないだろうか。


あの夏の市民プールで、ナワルはその事に気付いた。表情を失うほどの衝撃を受けるのも当然だ。その冬に彼女は亡くなり、遺言と二通の手紙を遺した。物語としては必要な展開だろう。しかし現実で考えたら、ナワルの遺言も手紙も、憎悪の連鎖を断ち切る行為とは正反対に思える。

少なくともジャンヌとシモンは、苦悩を抱え込んだ。それが憎悪に変わらないと、誰が言えるのか?  ナワルの遺した二通の手紙が、三人の子供たちと一人の父親の憎悪を浄化し、消しさるだろうか? その答えは無く、ただ憎悪の袋小路を見せ付けて終わってしまったという印象だ。

もっとも先に書いたように、原作の戯曲は四部作ということなので、物語には先があるのかも知れない。


ちなみに、この映画では火と水が印象的なシーンに使われている。その火と水については、以下のブログが興味深い解釈をされている。ただ、やはりそれでも姉弟の苦悩は大きく、重く残るだろうと思う。

[映画]灼熱の魂(ネタバレ)/笑わない女が歌うのは…
http://d.hatena.ne.jp/mina821/20120203/1328254874



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