2013年6月14日金曜日

深読みしたくなる映画「約束の旅路」その1


【データ】
原題:VA, VIS ET DEVIENS
公開:2005年
制作:フランス
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アルマンド・アマール, ロシュディ・ゼム, シラク・M.サバハ, ヤエル・アベカシス
時間:149 分


【原題】
原題は、「VA, VIS ET DEVIENS」。母親が、息子と別れる時にかけた言葉だ。日本語訳で「行け、生きよ、生まれ変われ」という意味だそうだが、字幕で使われていた「 行け、生きろ、そして何者かになりなさい」という訳の方が印象的だった。



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【あらすじ】
イスラエルは1984年に、「モーセ作戦」を実行した。飢餓と内戦に苦しむエチオピアから、エチオピア系ユダヤ人だけを救出してイスラエルヘ連れ帰る秘密作戦だ。イスラエルの「救出部隊」は、スーダンの難民キャンプのエチオピア難民の元にもやって来た。九歳の少年は母の機転によって救出のトラックに乗り、イスラエルで新しい家族得る。しかし何重もの重荷を背負った彼は、長い葛藤の日々を送ることになる。



【冒頭シーン】
エチオピアの隣国、スーダンの砂漠に作られたエチオピア難民のキャンプ。ベットと粗末な机が一つだけという赤十字のテントで、子供を抱いた母親が地べたに座り込んでいた。彼女の顔に表情は無い。たった一人の医者は子供の瞳孔を確認すると、その瞼を閉じてあげる事しか出来なかった。それでも母親は無表情のままで、とっくに心を失っているようだ。

その様子を少し離れた所から、じっと見ている女がいた。傍には、僅かな食事を半分残して彼女に差し出す男の子。それを優しく押し返して食べさせながら、またさっきの母親をじっと見ている。


夜中、キャンプに銃を持った兵士と何台ものトラックがやって来た。難民の中のユダヤ教徒だけが呼ばれ、列を作り始める。息子を亡くした母親もユダヤ教徒で、独り列に並んでいる。それを見ていた女は寝ている息子を起こし、彼らと一緒に行けと言った。

幼い男の子は、母親と別れることを嫌がった。離れることが嫌なのか、母を置いて行くことが心配なのか。しかし抱きつく彼を母親は突き放し、「VA, VIS ET DEVIENS ( 行け、生きろ、そして何者かになりなさい)」と言う。男の子は母親の威厳に満ちた態度に、悲しそうな顔で俯いて列に向う。


男の子の母親は、首に十字架を付けていた。当然、男の子もユダヤ教徒では無い。彼は母親に言われた通り、息子を亡くして独り列に並んでいる女性の手を握った。女性は驚いて振り返り、息子を送り出した母親と視線を交える。二人の母親は、共に無言で、共に無表情だったが全ては通じた。男の子の手を強く握り直して、列を進んで行く。

トラックの前では、イスラエル軍がユダヤ教徒であるかチェックしている。問われた女は少年を自分の息子だと言い、キャンプの医師もそれを保証した。彼女の本当の息子を看取った、あの医者だ。チェックが終わりトラックへ向う時、男の子は母親の方に振り返ろうとした。しかし彼女は、それを強く制して歩かせた。


こうして実の母親と別れ、宗教も先祖も偽り、少年は「シュロモ」というユダヤ名のイスラエル市民となった。一日で4200人もの、エチオピア系ユダヤ人をイスラエルに空輸した「モーセ作戦」の、一つの情景だ。同様の作戦はその後も行われ、六万人のエチオピア系ユダヤ人がイスラエルに移住した。


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